○アエロフロート(成田発/モスクワ行)

「めなさん(皆さん)
いつもアエロフロートをごぎよう(ご利用)いただきまして
ありがとうごぜぇます(ございます)」

飛行機はまだ飛び立ってもいないのに、怪しい日本語の機内アナウンスが思いっきり
異国情緒を感じさせてくれる。我々夫婦はこれから約10時間かけてモスクワに行き
そこから乗り換えてイスタンブールへと向かうのだ。

「何でトルコに行くの?」「トルコって何があるの?」
旅行前、いろんな人にこう聞かれた。確かにトルコという国はなじみが薄い。
実は我々もそうだった。ただ、昔オーストラリアに行った時に出会ったガイドさんから
「今までいろんな国に行きましたけど、トルコが一番でした」と言う言葉を聞いて以来
ずっとこの国のことが気になっていたのだ。

首都はアンカラ。公用語はトルコ語。国民の90%以上がイスラム教を信奉。
ケマル=アタチュルクを建国の父とする。イスタンブール歴史地区、カッパドキア
エフェス、パムッカレなど多くの世界遺産を持つ。・・などと色々なことを知る度に
『気になる国』は『行きたい国』になっていった。
そして何より私の心を引きつけたのは『トルコ料理は世界三大料理のひとつ』である
と言うことだ。残りの二つ・・フランス料理と中華料理は日本でも食べることが出来る。
しかしトルコ料理の店は札幌にほとんど無い。なのにイタリア料理をさしおいて
世界三大料理になっている。・・なぜだろう? 私の知っているトルコ料理はお祭りの
屋台などで見るドネルケバブと串に刺さった羊肉のシシケバブぐらいだ。
・・他にどんな料理があるのだろう?

一方、妻の方はトルコの絨毯・キリムに惹かれているようだ。日本でも色々見ていたが
やはり現地で買った方がずっと安くて良いものを買えるとのこと・・
そうなると決まるのは早かった。貯金を使い果たしてチケットを手配し
今回の旅行が実現したのだった。

そんなことを考えながら時計を見る。・・・まだ2時間しか経っていない。
前回、メキシコに旅行した時は機内で煙草が吸えなくてものすごく辛い思いをした。
あれから私は禁煙に成功しているので、それに関しては全然問題はない。
しかし、いくら禁煙に成功していても退屈なのは変わりない。

それに・・ここのスチュワーデスさん、ちょっとすさんでる気がする。
すごく美人なのに顔つきが恐い。ついさっきもキャスターを運びながらぬっと顔を近づけ
無言のままこっちをにらんでいた。恐らく飲み物は何がいいのか聞いているのだと思い
「コ・・コーヒープリーズ!」と言うと「レイター!(後で!)」と怒ったように言う。
どうもコーヒーと紅茶は後から別の人が持って来るらしい。それならコーラを・・
と思って声を掛けようとしたが彼女はもう立ち去った後だった。

その後ヘッドフォンが配られる。繋いでみたが全然聞こえない。
妻のヘッドフォンも同様だった。トイレに行ってみると『out of order!(故障中)』と
張り紙が貼ってある。それはいいが飛び立って3時間で4つあるトイレのうちの3つが
故障中というのはどういう事だろう? ひょっとして整備が不充分なのでは?
トイレがこんな状態なら、もしや機体自体の整備も杜撰なのでは?
そう言えば今窓から見える翼はやけに電線むき出しになってはいないだろうか?
・・と、考えているとだんだん恐い想像になってしまう。こんなことではあと6時間の
フライトがとてもつらいものになってしまうと思い、気持ちを切り替えようと外の景色を
見る。青い空に真っ白な飛行機雲が浮かんでいた。

飛行機に乗って飛行機雲を見たのは初めての経験かもしれない。
恐らく向こうの飛行機からは我々が飛行機雲に見えているのだろう。
・・そう考えると何となく不思議な感じがする。

それから2回の食事をして、ようやくモスクワに到着。
飛行機を降りる際、さっきのスチュワーデスさんが「さよなら」と声を掛けてきたので
私も「ダスヴィターニャ(さよなら)」と言ってみる。私が知っている数少ない
ロシア語のひとつだ。するとスチュワーデスさんも笑顔になって「ダスヴィターニャ」と
返してくれた。初めて彼女の笑顔を見ることが出来て、ちょっと得した気分になった。

○モスクワ空港
イスタンブール行きの飛行機を待つため空港内で時間を潰す。
かなり大きな免税店があって飽きない。

妻 「ねぇ見て! キャビアまで売ってるよ!」
私 「やっぱり結構高いね」
妻 「でも一度、本場のキャビアを食べてみたくない?」
私 「買うとしたら帰りの乗り換えの時だね」
妻 「あっ! 見て! サーモンキャビアだって! これはすごく安いよ!」
私 「ほんとだ!」

妻 「って、よく考えたらイクラのことか・・」
私 「・・イクラなら札幌にもあるって・・」

などと話ながらあっという間に時間が過ぎていった。

○アエロフロート(モスクワ発/イスタンブール行)
10時間のフライトを体験してしまうとモスクワ/イスタンブール間の2時間は
余裕で過ぎてゆく感じだ。さらに古い形式になった機体に不安を感じながらも
機内食を食べて(今日何回目の食事なのだろう?)くつろいでいると
やがて窓の外にイスタンブールの街並みが見えてきた。

妻 「来ちゃったね・・」
私 「・・うん」

夜の闇の中・・街の灯りが宝石箱のように輝き、とても幻想的な眺めだった。

○イスタンブール/アタチュルク国際空港
空港に着いたのは夜の12時過ぎ。深夜にも関わらず今回お世話になった
『OL-HAN Tour』のベキル君が向かえに来てくれていた。元鹿島アントラーズの
サッカー選手・レオナルドにちょっと似た感じのハンサムな青年だ。
日本語もすごく上手なので安心する。世間話をしながら車でDERSAADET HOTELへ・・・

(続く・・)