○DERSAADET HOTEL

早朝、お祈りの声で目を覚ます。これが噂に聞くエザンと言うものか・・
男性の祈りのような、歌のような声がスピーカーでガンガンと響き渡っている。
時計を見ると朝の5時・・そのまま二度寝する。

「起きてごらん! すごい景色だよ!」
妻の声で目を覚ます。

窓の外、朝日に輝くボスフォラス湾が見えた。
夕べは暗くてよくわからなかったがホテルの部屋もお洒落な感じだ。
支度をして食堂に行きパンとチーズとオリーブなどの簡単な朝食を摂る。
チーズもオリーブも日本のものよりちょっとしょっぱかった。
食事後、ロビーでベキル君と待ち合わせてOL-HAN Tourへ・・

○OL-HAN Tour
OL-HAN Tourの事務所はホテルから歩いて1分ぐらいの距離にあった。
ベキル君は我々の手にコロンヤを付けてくれた。
コロンヤというのは柑橘系の香料が入った消毒用アルコールでこれを手に付けるのが
トルコでは当たり前の習慣なのだそうだ。すごく爽やかでクセになりそうな感じだ。
(実際、日本に帰ってきた今でも使っている。・・でもこれを使い切ってしまったら
一体どこで買えばいいのだろう?)

ここで今回のツアー料金を払う。トラベラーズチェックにサインを書いていると
(これが結構面倒くさい)女性スタッフがエルマ・チャイ(林檎紅茶)を入れてくれた。
トルコのチャイは必ず小さなチャイ・グラスに入れて出される。ベキル君に言わせると
これが一番紅茶をおいしくする形なのだそうだ。ただ慣れないとちょっと持ちづらい気もする。
それとみんな必ず砂糖を入れて飲んでいる。と言うか、砂糖を入れないとおいしくない濃さに
チューニングされている感じだ。

チャイを飲みながらくつろいでいると、ベキル君がこれからイスタンブールの街を
案内してくれるという。特に予定を決めていなかったのでご厚意に甘えることにした。

○スルタンアフメット地区
スルタンアフメット地区はイスタンブールの中心部にある。
旧市街とも呼ばれていて我々が宿泊しているDERSAADET HOTELやお世話になっている
OL-HAN Tourの他、トプカプ宮殿、アヤソフィア、地下宮殿、ブルーモスクなどの
観光の目玉がほぼこの地区に集中している。これらに関しては明日見る予定だったので
外観だけを眺めたがそれでも圧倒的な迫力があった。
あちこちに歴史的な建造物が建ち並び、まるで街全体が博物館みたいな感じだ。

○グランド・バザール
トルコリラをまだ持っていなかったためグランド・バザールの両替屋に行く。
ここの両替屋が一番良いレートで交換してくれるのだそうだ。
ただ、ここで買い物をしてはいけないとベキル君は何度も念を押していた。
売られているもの全てが観光客向けの価格になっているらしい。
実際、ちょっと歩いただけで日本語の呼び込みがある。

「バザールでござーる!」(誰が教えたんだろう?)
「あっ! 落ちましたよ!」(何も落としていないのだが注意を引くためにこう言う)
「あなたは日本人ですか?」(と日本語で聞かれて「いいえ」と答える人がいるのか?)
「さよならー!」(いきなりそう言われても・・誰かが逆の言葉を教えたのかも・・)

こういう呼び込みは我々の買い物心を急激に萎えさせてしまう。
結局、両替だけをしてそそくさと通り過ぎた。それなりに有名な観光地だと思うので
見て損はしないと思うが少なくとも我々にとっては好きになれない場所だった。

○エミノニュ
グランバザールを出てトラムと言う路面電車に乗る。
ここはジェトンと言うコイン式の切符を買って改札口に入るシステムになっているのだ。
この日ベキル君にいろいろ案内してもらったおかげで私も土地勘をつかみ
翌日以降、ほとんど道に迷わずに行きたい場所に行けた。大感謝である。

エミノニュはトラムの終点にある駅だ。ボスフォラス湾に面していてここからフェリー
などに乗ることも出来る。そのせいか沢山の屋台が出ていた。
最初に試してみたのはピクルスのジュース。・・こう書くとちょっと変な感じだが
それ以外に説明のしようがないので仕方がない。紙コップに数種類の野菜のピクルスが
盛られ、それにお酢がかけられたものでこれがサッパリとして美味しかった。

ベキル君はムール貝の殻にピラフを詰めたもの(ミディエ・ドルマス)を頼んでいる。
好物らしくパクパクと立て続けにいくつも食べていた。
我々もごちそうになったが確かにこれも美味しかった。

その他にも皮をむいたキュウリやシュニッツェルと言う固いパンなどの屋台が出ていたが
ここで一番有名なのはサバサンドだ。その名の通り焼いたサバをパンに挟んだだけの
シンプルな食べ物で接岸された船の上で売られている。
しかしこの船がものすごく揺れる。大丈夫かって聞きたくなるくらい揺れている。
よくこんな不安定な足場で料理を作れるなと感心してしまう。
ただ、毎日営業しているのだから地上で作ればいいのではないかと思うのだがどうなのだろう?

そんなにお腹がすいていないのでサバサンドは食べずにガラタ橋を渡る。
そこから『世界一短い地下鉄』に乗った。

・・・本当に短い。5分も経たないうちにイスティクラル通りに着いた。
「こんな短いのなら歩いてもいいのでは?」とベキル君に聞いたところ
ものすごく急な坂になっているのでそれは難しいらしい。
その時はそれで納得したのだが、では地下を掘る理由は?
・・単に世界一が好きなだけかもしれないと思ったが黙っていた。

○イスティクラル通り
イスティクラル通りは新市街の中心部だ。ここをタクシム広場まで歩く。
途中、チチェキパサ−ジュと言う市場を見た。

色とりどりの野菜、たくさんのチーズ・・市場は活気に溢れていた。
なかでもデコボコとした肌の巨大なヒラメ型の魚(KALKAN)が印象的だった。

昼食はタクシム広場近くのPEHLIVANと言うロカンタ(食堂)。
初めてのトルコ料理だ。果たして世界三大料理の実力は・・・

トルコ料理はまずメゼと呼ばれる前菜を選んで、その後にメインディッシュを頼む方式らしい。
ただ我々は目の前に並んだ前菜に目移りしてしまい、ちょっと頼みすぎてしまったようだ。
しかしそれらを全部食べきってしまうくらいトルコ料理は我々の口に合った。
煮たズッキーニにトマト味のライスを詰めたもの、トマトのチキン、トマト味のナス・・・
野菜を上手に使った料理が多く、それが全部美味しかった。
(よくよく考えるとトマト味だらけのような気がするが・・・)

メインはベキル君お勧めのイスケンダル・ケバブ。ドネルケバブとパンに
トマトソースとヨーグルトをかけてオーブンで焼いた料理だ。これもうまい。
我々は海外に行くと食が細くなり頼んだものを残してしまうことが多かったのだが
トルコ料理に関してはそれが全くなかった。さすが世界三大料理だ。

○軍事博物館
たくさん食べた後は歩かなければ・・と言うことでタクシム広場から軍事博物館まで歩く。
しかし、それなりに遠いのでタクシーで移動した方が無難かもしれない。
(実際、こっちのタクシー代はかなり安い)

館内には「鎖かたびら」や「鉄の仮面」など様々な武器や防具が展示されていた。
昔ゲーム会社でデザイナーをしていた妻は「これってゲームみたいだよね!」
と感心している。そうではなくてこっちが本物なのだ。

しかし、中には結構間抜けな武器もある。
特にこの銃・・よく『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』と言うが
さすがにこれはどうだろう? 味方まで撃ってしまいそうで危険ではないだろうか?

それと下の写真の武器・・銃にもなり短剣にもなりナックルダスター(拳に付ける武器)にもなる優れものだが
十徳ナイフと一緒でひとつひとつはかえって使いにくいような気がするがどうだろうか?

かつてヨーロッパの中心だったこともある国だけあって展示品はものすごく充実していた。
その後、ホールで軍隊音楽の生演奏を聴く。
これは一日に一回、4時から行われているこの博物館一番の見所・・と言うか聞き所で
オスマントルコ時代の衣装を着た楽隊が当時の音楽を生演奏してくれる。
どんな曲かというと・・・昔やっていた向田邦子のTVドラマ『阿修羅のごとく』の
テーマ曲と言えばわかりやすいだろうか? 妻に言わせると『なるほどザ・ワールド』で
トルコが紹介される時必ずかかる曲なのだそうだ。メロディ的には所ジョージの出ているCM
「♪めーいじ♪とかちっち・スライスチーズ」に近いのだが雰囲気は全然違うので
こう書くとよけいに混乱する人が出るかもしれない。とにかくこの演奏が素晴らしかった。

ベキル君は「これを聞くと魂が震える」と言っていたが、トルコ人ではない私にも
その気持ちがわかるような迫力のある演奏だった。

○ガラタ塔
演奏を聴いた後、ガラタ塔まで歩く。さすがにちょっとハードな移動だったらしく
案内してくれるベキル君も妻も無言になっていた。
しかし、ガラタ塔頂上からの景色は、そんな疲れを吹き飛ばしてくれるぐらいの
絶景だった。通路がちょっと狭いのが難点だがイスタンブールの街をぐるりと見渡せる。
高いところマニアの私としては大満足な場所だった。


○エミノニュ
ガラタ橋を渡り、エミノニュに戻る。
サバサンド屋は相変わらずものすごく揺れる船の上で、何事も無いかのように
サバサンドを作っている。まるでドリフのコントを見ているようだ。
ちょっとお腹が減っていたので今度は食べてみる。
あ・・結構いける。サバとパンとお好みで挟んだ生のタマネギ・・
それに塩をふっただけのシンプルな料理なのに妙にハマってしまった。

ここでベキル君が「ウチの会社、絨毯屋もやっているが見てみないか?」と聞いてきた。
絨毯を見るのも旅の目的の一つだったし、今日一日案内してくれたベキル君にも
お礼がしたかったので行ってみることにする。

○OL-HAN
チャイをごちそうになりながら絨毯を見る。
お店の人が次々に広げる絨毯を見て妻が「これはいらない」とか「これはキープ」とか
言いながら好みを伝えてゆく。10分も経たないうちに店内は広げた絨毯で戦争のような
状態になっていた。「もっと赤っぽく・・」「いやそう言う赤じゃなくて・・」
なんだか妻も真剣だ。値段を聞いてみたところ日本で買うよりもずっと安いらしい。
最終的に好みの絨毯を選び終えた時には、外はすっかり暗くなっていた。


○プディング・ショップ
夕食はスルタンアフメットにあるプディング・ショップと言うロカンタ(食堂)。
メゼ(前菜)を3つぐらい頼んで軽くすます。
トルコのロカンタでは必ずパンが食べ放題になっているので
調子に乗ってつまんでいると前菜だけでお腹一杯になってしまう。
食後、お店の看板メニュー(?)でもある2種類のプリンを頼んだが
・・・プリンに関しては日本のものの方が美味しいような気がする。
その後ホテルに戻り、やたらとハードな一日が終わる。


(続く・・)