○DERSAADET HOTEL

朝、フロントからの電話で目を覚ます。
「Hello!! エージェントのバスが来ていますよ!」
「え? だって今は・・」
時計を見ると5時40分!・・やばい! 寝過ごした!
急いで妻を起こし、大慌てで用意をする。

「何で目覚まし・・鳴らなかったんだろう?」

そう思いながらドタバタと荷造りをしていると急に鞄の中で携帯電話が鳴り出す。

「え? 何で今頃鳴るの?」

既に荷造りを終えた鞄の奥深くから携帯電話を取り出し、アラームを止めて時間を見ると・・

「しまった!! 集合時刻にセットしていた!!」

・・・便利な道具も、こうして持ち主がマヌケだとかえって邪魔になる。
朝から変な教訓を思い浮かべながら用意を終え、猛ダッシュでフロントへ・・
結局15分ほど遅れてしまった。
(ベキル君、OL-HAN Tourの皆さん、ごめんなさい。)

○トルコ航空(イスタンブール発/カイセリ行)
ベキル君がピックアップ時間を早めに設定してくれたおかげで無事予定の飛行機に搭乗。
機内はやたら日本人が多かった。イスタンブール/カイセリ間は1時間ちょっとの移動。
しかし短い飛行時間にも関わらず機内食(軽食)が出るので結構慌ただしい。
あっという間にカイセリ空港に着いた。

○カイセリ空港
カイセリ空港は比較的小さな建物だった。ゲートを抜けるとRose Tourのガイドさんが
向かえに来てくれていた。観光大学の学生さんらしい。なんとなく前の職場にいた後輩
「ヒデ坊」に似ていたので、以後我々夫婦の間では彼をこう呼ぶことにした。

ヒデ坊の話ではここからカッパドキアまでは車で1時間以上かかるらしい。
のどかな田舎町をひたすら走りながら、ヒデ坊と雑談。彼はゲームが好きなのだそうだ。
どんなのが好き? と聞くと「マリオ」とか「ソニック」など日本製のゲーム名を
挙げてくる。別に私が作ったわけでもないのだが、ちょっと嬉しかった。

しばらく走っているとヒデ坊がいきなり「オリビアを聞きながら」を歌い出した。
「♪ジャスミンティーはー、眠りぃさそう花火・・」

授業の際、観光大学の先生が教えてくれたのだそうだ。杏里も自分の歌がこんなところで
教材になってるなんて思ってもいないことだろう。
・・でもヒデ坊、歌詞が微妙に違う気がするぞ。
ヒデ坊はその他にもインターネットで宇多田ヒカルや倉木麻衣の歌をダウンロードして
聞いているらしい。妙に日本通だ。何曲か歌ってくれたが我々の方が知らなかった。

などと話しているうちに車が止まった。外に出てみると目の前に赤茶けた大地が広がる。
・・・とうとう来たんだ。


○ウチヒサール
初めて見たカッパドキアは、まるで地球じゃないみたいな景色だった。
学生の頃TVで見て、それ以来ずっと気になっていた場所・・
本を読んだり、写真を見たりしてそれなりに知識は蓄えていたはずだった。
でも本当にその地に立った時の感動は想像していた以上のものだった。

この感覚を何とかして伝えたくてカメラを構える。
・・ファインダーに収まっている部分しか写せないのがもどかしい。
見渡した景色の壮大さや、踏みしめた赤土の音、吹く風の感触・・
写真や文章で伝えられるものより、実際に訪れないと味わえないものの方がずっと多いのだ。

ヒデ坊に案内され奇岩の中に入ってみる。そこは古い教会だった。
壁や天井にキリスト教のフレスコ画が描かれている。
「フラッシュを焚かなければ写真もOKです」
ヒデ坊からそう聞いたので何枚か撮ってみた。
人物の顔の辺りが削られているのはアヤソフィアと同様の『宗教的な理由』だろうか?

教会を出てしばらく歩く。イスタンブールよりさらに日差しが強い感じだ。
たちまち汗をかく。帽子やペットボトルの水は欠かせないと思った。
それと運動靴。この辺りの土は乾燥しているため革靴があっという間に真っ白に
なってしまう。歩きやすくて汚れの目立たない靴を履いてきた方が良さそうだ。

やがて小さな街にたどり着く。
・・岩をくりぬいた洞窟の中に、実際に人が住んでいる。なんだか不思議な感じだ。
ここで休憩してエルマ・チャイを飲んだ。トルコでは本当にチャイを飲む機会が多い。

○ギョレメ
車に戻りギョレメへ・・カッパドキアはそれぞれの観光名所が離れている。
このため自力で回るのはかなりつらいと思う。ツアーを頼んで正解だった。
昼食はレジェンドホテルという小さなホテルだった。
さっきまで運転手をしていたムスタファさん(トルコはこの名前の人が多い気がする。)
が食事を出してくれる。話を聞くとこのツアー会社の経営しているホテルなのだそうだ。
サラダとスープと、ご飯の上に炒めた肉と野菜がかかったようなシンプルな食事だったが
これが意外と美味しかった。
食後、ヒデ坊が付近を案内してくれる。高台から見下ろすギョレメの街と
その奥に広がる巨大なパノラマ・・・絶景だった。

○パジャバー
その後、パジャバー地区へ・・実はここが一番カッパドキアらしい場所かもしれない。
キノコの形をした岩がにょきにょきと立ち並ぶ景色は、これまでのツアーで
多少『奇岩慣れ』をしてしていた我々を驚かすに充分だった。


観光地だけあって、この辺りはおみやげの露店が並んでいる。
キノコ岩の絵皿やキノコ岩の置物・・・持ち帰るには荷物になりそうなものばかりだ。

それらを冷やかしていると一人の青年が「この上に昇ってみないか?」と背後にある
大きなキノコ岩を指さす。面白そうだったので彼に案内されキノコ岩の中へ・・

ほぼ垂直になった縦穴を青年のアドバイスに従ってロッククライミングの要領で登り
なんとか上のフロアにたどり着く。・・ここからの眺めも素晴らしかった。
(上の写真中央の国旗のある穴から見た景色が、下の写真です。)

せっかく案内してくれたので(もちろん彼もそれを期待した上での親切なのだろうが)
彼の露店からお守りを買った。石で出来た手首に巻くタイプのアクセサリーで
日本円で50円ぐらいだった。さっそく付けてみる。安物だが良い記念になる。

○アヴァノス
「では、これからアヴァノスで奥さんの好きなお皿を見ます!」
車に戻るとヒデ坊がなぜか嬉しそうにこう言った。
確かに妻はお皿が好きかもしれないがヒデ坊にそれを伝えた覚えはない。
そうこうしている間に車はアヴァノスにある陶芸工場へ到着。
すると、フランンソワーズ・モレシャン風の日本語を話す女性が出迎えてくれた。

彼女(以後、『モレシャンさん』と書くことにする)は我々を奥の工房に案内する。
器用にろくろを操る職人さんを指さし、妻に向かって
「では、あなたにもアレをやってもらいます」と、いきなり宣言する。
妻の顔にたくさんの『はてな』が浮かんだので
「だぶん、ここで作ったお皿を買えってことじゃないかな?」
と私が言うとモレシャンさんは「ノノノノ! お金はいりません。タダです!」と断言。
・・よくわからないまま職人さんの指示に従い妻がろくろに乗った粘土をいじり始める。
なんだかちょっと楽しそうだった。

10分ぐらいの陶芸体験を終え、なんとなくお皿のようなものが出来上がった後
モレシャンさんは我々をショップに案内する。パッケージツアーによくある
『お買い物タイム』が始まったようだ。

そう言えばこのツアーの間、ヒデ坊は何回かお皿のことを言っていた。
「この赤土を使って焼いたお皿が、カッパドキアの名物なんです」
「この先にあるアヴァノスは、陶芸の街として有名です」
これらの台詞は全て、このイベントの伏線だったのかもしれない。

モレシャンさんは妻の後をぴったりと付いてきて色々な説明をしてくれる。
「あなただけ特別に安くします。しゃちょ(社長)さんには内緒です」
先ほど陶芸体験をさせてもらったこともあり、妻はなんだか断りにくそうな感じだった。
値段を聞いてみると1枚180ドルぐらいする。結構高い。
きっと良いものなのだろうし、恐らく日本で買うともっと高いのだろうが
持ち帰るのが大変だし、そもそもお皿を買うためにここに来たのではない。
しかも日本に発送するとさらに100ドル以上かかるのだそうだ。
お皿がもう一枚買える値段だ。
「大丈夫。ぷちぷちで包んで送ります。2枚買えば送料同じでさらにディスカウント。
たくさん買えば買うほど安くなります!」
・・たしかに一枚あたりの単価は安くなるがトータルの出費は倍々で増える。
結局断った。モレシャンさんは悲しそうな顔をしていたけど・・でも、仕方ない。

○URGUP EVI
夕方になってツアーは終了し、車はURGUP EVIへ・・
カッパドキアではこのホテルに泊まることになっている。

最初見た時、ホテルにじゃなくていつもの奇岩かと思った。
洞窟ホテルの名の通り岩場をくりぬいた部屋・・と言うか穴がたくさん並んでいる。
中に入るとひんやりと涼しい。こういう場所ではわざわざ建物を建てるよりも
柔らかい岩をくりぬいた方が効率よく住居が出来るのかもしれない。
汗と埃をシャワーで洗い流し、しばらくゆっくりとした後夕食へ・・


○ウルギュップ
ホテルを出て、町の中心部まで歩いてみる。途中、歩き方がおかしい犬がいた。
足が悪いのかなと思ったが、よく見るとスキップをしていた。
スキップ犬・・珍しいものを見た。

ウルギュップはカッパドキアで一番大きな街なのだそうだ。
確かに賑やかなのだが、ツアーの勧誘がうるさい。
ちょっと立ち止まって地図を見ているとすぐに話し掛けてくる。

「ハイ! どこに行きたいんだ?」
「ツアーは決まってるのか?」
「無料の地図があるけど店の中に入って説明を聞かないか?」

最初にきちんと「ツアーは決まっている。地図だけ欲しい」と伝えたところ
それほどしつこい説明も無く地図を入手することが出来た。
その地図を見ながら「シュミネ」と言うレストランへ・・

○ショミネ
ショミネは結構高級そうなレストランだった。
ここで「キレミッテ・マンター」を頼んでみた。大きなマッシュルームにチーズをかけ
オーブンで焼いた料理なのだが、これが絶品だった。
今回の旅行の中でもう一度食べたい料理ベストワンかもしれない。
日本に帰ってから椎茸で試してみたが(近所のスーパーにはあんな大きな
マッシュルームは売っていなかったので・・)全然再現出来ず悔しい思いをした。

その他にカッパドキア名物の「テイスティ・ケバブ」を食べた。素焼きの壺の中に肉とトマト、
マッシュルームなどを入れて煮た料理で、客の目の前で壺を割って出される。
ちょっと壺がもったいない気もするし、料理の中に小さな壺の破片が混じっていて
それを思いっきり噛んでしまったが、それでも美味しかった。

デザートはカダイフ。これは揚げた細いそうめんのようなものを固めて
それに甘い蜜をかけたお菓子で、これも超絶的に甘かった。
でも昨日ほどつらくない・・と言うかむしろうまい。
ひょっとして私はトルコの激甘お菓子に慣れてきているのだろうか?

食後ホテルに戻る。この街は異様に埃っぽいのでコンタクトレンズはつらい。
成田空港で買った目薬が非常に役立った。

明日は朝5時から気球ツアーを予約している。
今朝寝坊をしているので今度こそは遅れられない。

(続く・・)